STORY

3.手染めの糸が持つ、ゆらぎという光

あとりえ菫
Artistry in Hand-Dyed Yarn from Across the Sea

海を越えて届く、手染めの毛糸という芸術

数年前、靴下編みに夢中になっていた時期がありました。 一足の靴下の中に、複雑な技法が凝縮されたその世界に惹かれ、いつかは自由自在に編めるようになりたいと、編み針を動かす毎日を過ごしていました。

そんなころに出会ったのが、海外の小さなメーカーで作られた「手染めの毛糸」でした。

それまで手にしていた均一な糸とは、全く違いました。 ひと玉の中に、朝露のような淡い色や、夕暮れのような深い影が混じり合い、刻一刻と表情を変えていく。その「色のうつろい」の美しさに、私は息を呑みました。

「この糸を、靴下として消耗させてしまうのはもったいない……」

心のどこかで、そう感じていたのかもしれません。 手染めの糸は、二度と同じ編み地を作ることができません。それは一期一会の出会いであり、自然がくれた偶然の産物です。 あるメーカーのSNSを覗くと、そこには牧場で羊を飼い、毛を刈り、丁寧に染めて、風に干している情景が映し出されていました。

その糸に触れるとき、私は作り手の呼吸や、遠い国の風の匂いを感じます。 日本の糸のような完璧な均一さはないけれど、ずっと触れていたくなるような、原始的で優しい肌触り。その「ゆらぎ」こそが、神様が作った本物の美しさではないかと思うのです。

あの地震のあと、私の心を救ってくれたのは、古い編みぐるみでした。 その半年後、「もし、あのとき私を救ってくれた存在を、この愛おしい手染めの糸で編み上げたら、どんなに心強いだろう」という想いがあふれてきました。

洗濯をくりかえす実用品ではなく、一生大切にそばに置き、何度もなでて、ともに時を重ねていくもの。 そんな「すみれうさぎ」に、私はこの、海を越えて届く素晴らしい糸を選びました。

均一ではないからこそ、愛おしい。 私の指先から生まれる「ゆらぎ」が、あなたの掌(てのひら)にも、温かな光を灯せますように。

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